とあるご家庭でのこと。
今まで仕事一筋で、なかなか家のことにも向き合えなかったご主人が、急に体調を崩しました。
当たり前だった生活が一転。
ただただ忙しく過ぎ去っていた時間の流れが止まり、一からのスタートを余儀なくされました。
家族を守らなければならない焦りとは裏腹に、築き上げてきたものがすべて指の間からこぼれ落ちてしまったような無力感。
「今の自分には、何もない。」
自暴自棄に陥り、すっかり気力を失う日々。
そんな彼を救ったのは、妻の一言でした。
あなたには、美しい字を書ける才能がある、と。
そして、私には趣味の絵がある。
「せっかく頂いた残りの命、これからは、誰かのために生きてみよう。」
こうして、ご夫婦二人三脚で始めた絵手紙は、病院の一角の展示から始まりました。
恐らく、これが天命だったのですね、と振り返る瀧下白峰先生。
このときの想いは、今もお二人の大切な志として、美術館の奥に飾られています。
病院での「命」について触れた作品は、深い共鳴を呼び、大変な評判となりました。
はじめは“病院”というシチュエーションだから・・・と、かまえていたそうですが、縁あって別の場所で展示することになっても同じように反響が良く、次々とご覧になった方の心を掴んでいくのがひしと感じられたと言います。
縁が縁を呼び、ご自身でも驚くほどトントン拍子に作品は広まり、ついには5年前、オカムラホームさんからの声掛けによって、念願のギャラリーオープンに至りました。
「まさに、パワースポットですよ。」
そんな言葉が聞かれるほど、癒しと気付きで溢れる八千代の小さな美術館。
今回は「やちよ絵手紙の森美術館」をご紹介しましょう。
新川のむらかみ橋近くに建つこの美術館は、抗酸化陶板浴アース・メイトに隣接していて、普段からよく見かける方も多いのではないでしょうか?
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↓ 入口はジョイフル本田に向かう道路側。
↓ 駐車場はアース・メイトと共有です。
アクセスはそんなに悪くないのですが、来場者の内訳を伺うと思いのほか市内の方は少なく、むしろ遠方から訪れているケースが多いらしいのです。
わざわざこの為だけに八千代へ来たわけではないかもしれませんが・・・中には遠く九州から足を運び、“友の会”にまで入っていらっしゃる方がいるほど、熱心なファン層が厚いとか!
最近では千葉三越で展覧会が開かれたり、2001年から全国出版されている絵手紙エッセーの第5冊目が発売されたりとご活躍の場を広げているのが、作品を手掛ける瀧下ご夫妻です。
↑ とても穏やかな瀧下白峰先生。奥様の瀧下むつ子先生は、はつらつと明るい印象です。
こじんまりとした入口からは思いもよらないほど、右奥に広がる館内は奥行きがあって、とても洗練された雰囲気!天井からは自然光が射し込み、温かな作品を飾るのに絶妙なシチュエーションを演出しています。
カーブを描く白い壁に並ぶ、大小の額に入れられたさまざまな形式の作品。
それらは“絵手紙”という言葉から連想するサイズとはまるで異なり、ものによっては紙ではなく置き物がキャンパスとして扱われていたり!
作品を前にして、まず目を惹くのは言葉。
墨で書かれた文字ならではの、凛としたすがすがしさが心地良い!
その一言のなかに込められた思いに自分も寄り添い、ほっこり。
添えられた絵も本当に繊細なタッチで、細部まで丁寧に描かれています。
↑ 『春、夏、秋、冬、その時々の感動を誰かに伝えたい。平凡な暮らしの中で起きた小さな出来事をあの人に知らせたい。そんな思いを織り交ぜながら、季節の絵手紙エッセーとして綴りました。』と奥様。
訪れた方が皆さん口にすること、それは
『展示されているどれかに、自分の今の心にピッタリとはまる一枚がある。』ということ。
見る人が重ねる気持ちによって、同じ作品でも何通りもの意味を持つというのです。
時には、その一枚に涙する方がいるほど。
つい、どんな想いがこの一枚を生み出したんだろう?と気になってくるのですが、特にそれを紐解く解説などは添えられていません。
聞けばやはりそれぞれの作品には、すべてエピソードがあるとか。
例えば、一足のシューズに添えられたこんな短い一文。
これは、とある日に下駄箱を掃除していた奥様が、一足の小さなシューズを見つけた時のこと。お子さんが小さかったときのものを手にし、それを履いていた頃を思い返したときに浮かんだものだそうです。
しかしそのときの想いをあえて詳しく紹介しないのは、そうすることによって、作品に向き合うときの気持ちやその人の経験などによって、全く違った見方ができるから。
それを味わってもらいたいという意図があり、だからこそ添える言葉は出来る限り省くようにされているとか。
少ない言葉で、見る方の心に届くように。
「長くてもダメ、説教じみてもダメ」
そんなことを心に留めながら、言葉のチョイスに試行錯誤しているそうです。
館内の作品は、年8回ほど模様替えがなされています。
常時40〜50点ほど展示しているその内容は、春夏秋冬のテーマに沿ったものに加えて、母の日・父の日のイベントや行事などでも入れ替えるため、約1か月半くらいで違った内容が楽しめるとか。
倉庫には500〜600点ほど保管されているので、過去に展示したものを再展示することが多いようですが、必ず毎回新作を追加しているので、例えば「母の日」などのイベントに合わせて毎年いらっしゃっている方からも、「毎回内容が違うので何度来ても見所があって面白い!」という声を頂くそうです。
これらの作品は、大々的に販売するようなことはしていないそうですが、どうしても!というお話をいただくときにはお譲りするケースもあるようです。(この日も、先日の展覧会にいらした方からのお取り置きで、“売約済み”の紙が貼られた作品がかけられていました)。
作品が気に入った方には、よりお気軽に手に出来るように、人気の代表作が印刷された絵葉書やグッズが購入できる一角もありますので、ぜひのぞいてみては?
こちらの美術館は、【入館料】一般500円、小・中学生200円、団体料金(10名様以上)400円、という設定になっています。実際のところ、この金額を頂いても場所代を維持するだけで精一杯なんですって・・・。
それなのに、おトクに入館できる「友の会」制度が用意されているそうで、一般会員(一口3,000円)に申し込むと、作品やイベントなど活動内容がつづられた四季会報に同封され、毎回2枚のチケットが届くとか!年間計8枚の入館チケットが手に入るので、1,000円もお得になります。
さらに、会員さん向けにバスツアーが年2〜3回予定されているのですが、これがまた大変おトク。
米本にある“かもめ観光バス”さんが、寺院など歴史に関する観光スポット巡りを中心に、果物狩りなど遊びをくわえた内容で、さらに食事にかなり力を入れたお得な内容を1万円以内に収めるように(大体いつも8,000円前後)した充実したツアーを組んでくださるらしく、毎回定員一杯になるほど大好評だとか。
今年はギャラリーオープンから5周年記念ということで、11月頃にウィシュトンホテルでイベントも予定しているそうですよ!
ひとつひとつに向き合っていると、いつの間にか瞑想しているような、心穏やかな時間が過ごせていました。誰かと一緒に楽しむのもいいけれど、ゆったりすごせる日に、一人で訪れるのもオススメな楽しみ方かも!
ぜひこの癒しのスポットへ、足を運んでみてはいかがでしょうか?
●やちよ絵手紙の森美術館 047-487-6265
千葉県八千代市村上南2-16-25(地図)
【開館時間】10:00〜16:00
【休館日】月曜日(祝日の場合は火曜日)、毎月末の月・火曜日
※その他、臨時休館有り。事前にお問い合わせいただければ確実です。
※ホームページ(⇒こちら)にも、休館情報や展示イベント内容などが紹介されています。
【駐車場】有り
【入館料】一般500円、小・中学生200円、団体料金(10名様以上)400円
【友の会】美術館受付にてお申込みいただけます。年会費:賛助会員/一口10,000円(四季会報送付・その都度入館券5枚同封(年20枚)ほか)、一般会員/一口3,000円(四季会報送付・その都度入館券2枚同封(年8枚)ほか)
【ホームページ】http://yachiyo-etegami.jp/
〔プロフィール〕
瀧下 白峰
1980年日展審査員・創玄書道会理事の田岡正堂に師事。1981年毎日書道展初入選。1997年毎日書道展会友となる。その後はイタリア・ローマ展、中国・西安展、ドイツ・ディュッセルドルフ展などに出品。現在、白水会会長。
瀧下 むつ子
主婦業の傍ら、エッセーや絵手紙などを趣味として現在に至る。様々な文芸賞に投稿し、多くの受賞歴がある。主なものは、総務庁主催交通安全家族会議作文入賞、パールエッセイ賞入選、NTTふれあいトーク大賞入選など。